寒くもなく、暑くもなく、毎年 必ず訪れるこの季節。 ポカポカした陽気に誘われて、ひらひらと小さくて可憐な蝶たちが華の上で華麗に舞う。 近くでは小鳥たちが囀り、それが程よく鼓膜に冴え渡り心地良いメロディを奏でていく。 季節は春。 そんな暖かな日差しのもと、誰もが心を弾ませている中に 悩める少年がここに一人いた。 「ぅ゛――――……」 明らかに不機嫌な声を発し、両目を擦りながらずっと部屋に篭り総士は一歩も外に出ようとしない。 他のみんなは楽しそうに外ではしゃいでいるのに、総士だけはそれを嫌がった。 「そうし…。なんで外であそばないの? ねむいの?」 そう声をかけてきたのは幼馴染の一騎。 今日は、いつも仲良しな5人が総士の家に遊びに来ていた。 初めこそは総士の部屋でゲームをしたり、楽しく話をしてたりしていたけれど、 次第に飽きてきたのかいつの間にか外で戯れ始める。 しかし、総士だけはそれを拒絶したのだ。 「ちがうの……。 目が かゆくなるからイヤなの…」 ここ数日、ずっと俯いたまま目を擦っているのを一騎は何度も目にしていた。 しかし、ただ単に暖かいから眠いものだと思っていた一騎は、特に気にも留めず遠くで見ているだけで。 まだまだ幼い所為か、相手を気遣うより遊び心の方が強かった。 けれど、こう何日も続いてくると流石の一騎も気になり始める。 せっかくみんな一緒に集まっているのに、総士だけは部屋から出ようとせず 窓も締め切って今も尚 目を擦り続けていた。 「かゆいの? 目が?」 「うん……」 小さく頷いて擦っていた手を止めると、散々 擦っていた所為か 瞳は赤く充血していて目蓋も僅かに腫れ上がっていた。 暫く手を止め一騎を見つめるも、次第に耐えられなくなるのか再び止めていた手を眼にあてようとする。 しかし、それは一騎によって阻まれてしまった。 「ちょっ!そうし、目ぇ まっかじゃないかっ!」 そこで一騎は初めて悟った。 どうして今まで気付いてやれなかったんだろう。 「やだぁ…っ…手、はなしてぇ……っ」 本能のまま目を擦ろうとした手を止められ、総士は生理的に涙を浮かべ始める。 ただ只管に耐えようにも、我慢できずギュッと思いっきり目蓋を閉じた。 そして、その拍子に流れ落ちる一筋の涙。 一騎は掴んでいた総士の手を離してやり、そっと指先で掬い取り頬へと手を滑らせながら問いかけた。 「そうし、遠見せんせいには みてもらったの?」 その質問に、総士は首を縦にふり素直に応じる。 「みてもらったよ。 そしたら“かふんしょう”だって言われた」 「かふんしょう…?」 一見穏やかそうに見えるこの季節、周りを見渡せば其処彼処に色とりどりの花々が咲き乱れている。 美しくも儚い花たちは、受粉する為 みな一斉に花粉を飛ばしていた。 人それぞれ体質にもよるが、花粉に対するアレルギーを持つ人は必ず何かしらの影響があるのだ。 あまり聞きなれない言葉に一騎が首を傾げていると、自由になった手で総士はぐしぐしと再び擦り始める。 「そうしっ。だめだよ!こんなに赤くなってるのに…っ」 「だってぇ…」 一騎には敵わないと知りつつも、僅かながら抵抗を試みる総士。 必死なその姿に、一瞬だけ一騎の眉が顰められた。 「お薬とかもらわなかったの?」 「もらった…けど、」 そう言ってもごもごと言葉を濁す。 ふと、総士の視線を辿っていけば机の上に目薬がひとつ置いてあった。 一騎は立ち上がり、それを手に取ると総士へと手渡そうとする。 しかし、総士はそれを受け取らずそっぽを向いてしまったのだ。 「そうし。これなんでしょ? せんせいから渡されたクスリって。」 それに返答はなく、それどころか黙り込んで振り向こうともしない。 「そうし?」 「……それ、目にしみるからイヤ。」 充血した瞳に涙を溜め、痒いのを我慢して総士は答える。 何だか、こんな我侭を言ってくる総士は初めてな気がして、一騎は呆気に取られていた。 ぷくっと頬を膨らませてる総士と、ぽかん…と口を開けている一騎。 傍から見てみれば、何とも言えない光景でもあった。 「……そうし。わがまま言わないの。 つらいんだろ?」 「イヤったらイヤ!」 一際 大きい声を上げて、総士は立ち上がり逃げる様にその場から立ち去ろうとする。 一騎は瞬間的にそれを察し、慌てて総士の腕を掴みにかかった。 途端にバランスの崩れる身体。 その思わぬハプニングに、一騎も総士の身体を支えきれず二人同時に床の上に倒れ込んだ。 「…ったぁ。 そうし、だいじょうぶ?」 「うん…。 かずきが下じきになってくれたから へいき」 反射的に瞑った瞳を開けると、一騎の顔から僅か数センチという所に総士の顔があった。 ほんの少し長めの総士の髪が頬を掠め、何だか擽ぐったくて仕方がない。 どきっ。 一瞬、大きく高鳴る鼓動。 ―――――――――あれ…何だろう。 そうしがすっごくかわいく見える…。 そして、一騎が無意識の内に総士に手を回そうとした瞬間、二人がいる部屋のドアが勢いよく開かれた。 「かずき!そうし! おまえらも外であそぼ―――…」 扉の奥の光景に、当然の如くその言葉は途中で切れてしまった。 「おまえら、なにやってんの?」 「わっ…、けんじっっ」 慌てふためく一騎とは違い、ムスッとむくれた表情に充血した瞳で総士が振り返る。 その瞳は涙で濡れていて、何とも言えない雰囲気を醸し出していた。 そのまま総士は立ち上がると、無言のまま部屋を出て行く。 無駄に慌ててた一騎と、現状が掴めずに呆然と突っ立っている剣司だけが取り残され、 シ…ンと室内が静まり返る。 暫くは一騎も剣司もお互いの顔を見合わせたまま黙り込んでいた。 しかし、一騎はある事に気が付く。 「あっ!!」 急に大きな声を出した一騎に剣司が驚き瞳を丸くしていると、一騎が悔しそうに一言だけ呟いた。 「そうしに にげられた…。」 だけど今更 気が付いてももう遅い。 一騎の足元には、倒れ込んだ拍子に落とした目薬が空しくも転がっていた。 END 何だか、とんでもなくヘボくて申し訳有りませんでした…。 これも突発で思い付いたんで、所々 文章がおかしいです; ってか、台詞に平仮名が多いから読みにくい…。 でも幼少時代なんで。 その辺は理解して頂けると嬉しいです(汗) 以上。 花粉症は辛いよね、って話でした。 そーゆう私も花粉症…。 この総士と同じで目にくるタイプだったりします。 来年は今年の10倍から15倍だったかの花粉が飛ぶそうで…。 今から死ぬ覚悟です(ふるふる) 2004・11・10 2004・1・3 再UP |