勝利の女神は誰の手に-01-


『勝利の女神は誰の手に』-01-




「よっしゃ―――っっ!!」
そう大きな声を上げて、勝利のポーズをとったのは仲の良い幼馴染の一人でもある近藤剣司。
表情は本当に嬉々としていて、心底喜び かなり浮かれ気味のようでもあった。
一方、それとは対照的にガクリと剣司の前で項垂れているのは真壁一騎。
普段、決して負ける事の無かった一騎にとっては相当なショックのようで……
「くそ…っ」
小さく言葉を吐き捨て、その場で身を縮こまらせる。

先程から何が行われているかというと、小さい頃から常に一緒だった幼馴染全員と、 そこにカノンも含めカードゲームをしていたのだ。
最初こそは普通に和気藹々と楽しんでいたが、普通にゲームをしていたんじゃ面白くないと剣司が言い出し、 いつしか賭け事をするようになっていた。
「一騎〜。今日は俺の圧勝だな!」
やけに誇らしげに、鼻高々と剣司が立ったまま一騎を見下ろす。
今までに負けた事の無い相手だけに、一騎のショックも相当大きなものだった。
「…ちっ。」
周りに聞こえない程度に軽く舌打をし、俯いていた顔をあげ無意識の内に剣司を睨み付ける。
その眼光は鋭く、さながら獲物を狩るような そんな刺すような視線で目の前に立っている幼馴染を見据えた。
「そんな怖い顔したってダメだぞ、一騎。賭けは俺の勝ちだからな〜!」
「あぁ。分かってるよ。」
重い溜め息を肩から吐き出し、ゆっくりと腰を落ち着かせる。
周りを見渡せば、クスクスと笑っている女性陣と衛の姿。
そんな中から一人、外れるようにして剣司の右後方にいた総士へと視線を落とせば、 彼もまた薄い笑みを含んでいた。
「で? 俺は何をすればいい? 確か賭け事は“負けた方が言う事を聞く”だったよな。」
早くこの嫌な気持ちを促したくて一騎は先を求める。
正直、剣司に負けた事がこんなにも悔しいなんて思ってなかった一騎は、思いのほか切羽詰っていた。
「そう! それなんだけど!」
ビシッと右手で一騎を指差し、左手は腰に当てて剣司が立ちはだかる。
こういう時だけは無駄にテンションの高くなる剣司に、一騎は時折ついていけない事もあった。
やけに自信たっぷりで、人を指差すものだから どんな事を言われるのかと鼓動を早めていると、 剣司の口からは思いもかけない一言が発せられ一騎は瞳を丸くした。
「一騎は、そこから絶対に一歩も動かない事! これが俺からの命令。」
「一歩も動かないって…。 俺は何もしなくていいのか?」
「あぁ。 一騎は動かないでそこに座ってるだけでいい。
それと、総士以外の皆はちょっとだけ外してくれないか?」
“総士以外”と言う言葉に、当然の如く野次が飛んでくるが、
剣司の必死ぶりにしぶしぶと皆は部屋を後にしていく。
「悪ぃな」
ニッと不敵な笑みを浮かべ剣司はそう言うと、視線を何故か総士の方へと向けた。
そしてそのまま足を総士へと向け歩き出す。 嫌な予感を感じつつも、一騎は黙ってそれを見送って行った。
それとは反対に、賭け事にまったく関係の無かった総士は、きょとん とした瞳で目の前にいる剣司を見つめ 軽く小首をかしげながら一言だけ彼の名を紡ぐ。
「剣司?」
まるでそれが合図だったかのように剣司は身を屈め、軽くトンッと総士の肩を押しその場へと押し倒す。
どこか優しい香りのする畳の上に、柔らかくて綺麗な亜麻色の髪が散らばっていき、 一気にその場の雰囲気を豹変させた。
一番驚いたのは他ならない総士自身だが、もちろんこの場にいる一騎もこの行動に目を見開き驚きを隠せない。
「けん…じ…?」
驚きと不安を抱えた瞳で訴えかける総士。
あまりにも無防備すぎるその身体に、剣司は迷う事なく覆い被さる。
最近よく着るようになった総士の私服は、大きく胸元が開いており、大胆にも袖の無い黒のノースリーブで……
間近で見ればさらに白い肌が曝け出され、無造作に畳の上に置かれた ほっそりした腕から首までのラインが何とも言えず、 それでいて明るい部屋の元で浮かび上がる鎖骨や ほんのり紅みがかった頬に思わず息を呑んだ。
「剣司っ!お前、何してるんだよ!!」
思わぬ展開に、一騎は勢いよく立ち上がり剣司へと詰め寄ろうとする。 が。
「一騎。“賭け”の事…忘れてないよな?」
体勢は総士に覆い被さったまま視線だけを一騎へと向け、不敵な笑みを浮かべながら剣司は言葉を放つ。
約束はしっかりと守る一騎は、その一言でぐっと押し黙ってしまった。
「ま、そんな怖い顔すんなって。どうせ遊びなんだからさっ」
悪戯っぽい笑みを含め、軽く一騎をあしらうと再び総士へと視線を落とす。
真っ直ぐなその瞳に、僅かに総士の身体が震えたように思えた。
「悪いな、総士。一回やってみたかったんだ。」
そう言うや否や、剣司はそっと己の唇を重ね合わせていった。
いきなりの展開で、まったく賭け事に関係してなかった総士は、
驚きのあまり瞳を見開きながら身体を硬直させてしまう。
しかし、逆に総士が抵抗しないのをいい事に剣司はさらに大胆になっていく。
触れる程度だった唇をさらに押し付け、口内へと舌を潜り込ませようとしてきたのだ。
「…っ…ん……ぁ…」
僅かに漏れる甘い吐息。 直接 鼓膜を通して響くその甘ったるい声に、剣司は背筋を震わせた。
「…やっ!……ん……んっ」
ようやく総士が事の展開を理解した時にはもう遅く、 いくら抵抗しても剣司を振り切る事は出来るはずも無い状況で…
さらに剣司に抱き込まれる形となっていくばかりだった。
それでも尚、必死に抵抗し一瞬離れた唇から顔を背け それ以上は許さないと言うように総士は前を見ようとしない。
「…か、ずきっ……」
目の前で繰り広げられていた光景に唖然としていた一騎だったが、総士に名を呼ばれ我に返る。
そして物凄い見幕で剣司に飛び掛ろうとするが、もちろん剣司はそれを察していてサラッとかわしていった。
「いいじゃんかー!キスくらい。どーせ減るもんじゃねぇだろー?!」
「総士のは減るんだよっっ!!」
ヘラヘラと笑いながら部屋の中を逃げ回る剣司に、一騎は苛立ちを隠せなくなり怒声を浴びせる。
それは、隣の部屋へと追いやられていた衛や女性陣たちにも筒抜けで……
「止めに行かなくて良いのか?!」
と心配するカノンを他所に、また始まったよ……などと言いながら 大きく溜め息をついている幼馴染たちの姿がそこにあった。










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21話の予告を観て衝動的に書き上げてしまったモノです。
あ、有り得ない……。剣司はこんな子じゃないよ(笑)
ってか、ここの中にいる皆…一騎と総士の仲は認めきってます。(まぁ、公式にもなっちゃてるからね!)
こんなアホな作品だけど……きっと楽しいのは書いてる自分だけなんだろうなぁ…(虚)
剣→総って、書き始めると意外に楽しいですよ?(誰に言ってるんだ)


2004・11・23