珍しくも、運動神経抜群な一騎が体育の授業中に怪我をした。 とは言っても、クラス対抗で行われていたバスケットボールで パスされたボールをタイミングを見誤って付き指をしただけなのだけれど。 「痛ぅ…っ」 掴みきれなかったボールが、軽く弾みをつけながら転がっていく様を見ながら 一騎はジンジンと痛みを伴う指をギュッと抑え付ける。 最初こそはぶつかった衝撃で痛いだけかと思っていたが、なかなか痛みが引かない上に 徐々に腫れ上がっていく指の付け根を見て、やっと自分が付き指をしたんだと理解した。 「一騎、大丈夫か?」 少し離れた場所で審判を勤めていた総士が、いつの間にか間近で一騎の心配をしていた。 すぐ目の前に映り込む総士の貌と、聞き慣れた声音が一騎の意識を引き戻し 何とも情けない自分の姿に、思わず咄嗟的にかぶりを振る。 「だ、大丈夫だよっ、これくらい」 そう言って何とも無いかのように掌を振って見せるが、痛みは当然引いている訳が無い。 そして、総士もまた一騎の指の腫れを見逃す事は無かった。 「どこが大丈夫なんだ?! こんなに腫れてるくせに」 パシッと軽く音を立て、総士は一騎の手首を掴むと、 「一騎を保健室に連れて行きます。」 一言、教師にそう告げてその場を後にした。 「どうしたんだ? こんなミス、一騎らしくない…」 保健室に着くなり、総士は一騎を椅子に座らせ 近くにある引き出しを軽く漁りながら問い掛ける。 どうやら包帯を探しているようだ。 遠見先生が居てくれれば こんな風に探す必要も無いのだけれど、生憎の不在で保健室の中は蛻の殻。 指を腫らしている一騎に探させる訳にはいかず、仕方が無く総士が必然的に探すハメになっていた。 まぁ、それがなくても総士は自分から進んで探していただろう。 そうでないと、付き添いの意味が無いのだから。 「ちょっと考え事してて…。」 「考え事?」 珍しい、と言わんばかりに総士が包帯を片手に振り向く。 きょとん、とした瞳が何とも愛らしいのだが、意外そうな表情をする総士に 一騎はあんまりだ…とも思っていた。 いくらなんでも一騎もお年頃な男の子。考え事や悩み事だってたくさん有るのだ。 「僕でよければ相談に乗るが?」 向側にあたる椅子に腰を下ろし、真っ直な瞳が一騎を見つめた。 窓から漏れる光が逆行となり、淡く綺麗な亜麻色の髪が更に透明度を増す。 それが一騎にとって どれほど心に衝撃を与えている事か……。 毎度の事ながら、一騎はふとした拍子に総士を見る度 常々 思っていた。 ……………心臓がいくつあっても足りない、と。 「い、いや、そんな大した事じゃないから…っ」 誤魔化すように軽く笑い、一騎は慌てて首を横に振る。 だって、言えるはず無いじゃないか。 総士の事をずっと考えていた………などと。 「…そうか?」 「うん。 ありがと、総士」 ほんのりと色付く頬を意識しながらも、照れ隠しの様に微笑み 礼を言った。 少々ぎこちないと自分でも分かってはいたが、何となく気恥ずかしくて総士には知られたくなかったのだ。 それが、例え想いを寄せ合っている相手だとしても。 けれど、そんな雰囲気が一転。 豹変した。 「ちょ…、総士?!」 慌てて一騎は声を荒げる。 「今度は何だ」 やや溜め息交じりの声で、総士は顔を上げ一騎を見遣った。 その両手には、突き指をした一騎の手をしっかりと持っていて…… 「……もしかして、総士が…その、手当てしてくれるのか?」 「何か問題でも?」 「えっと…。」 正直言って、嫌な予感はしていた。 何をしても不器用な総士のことだから、きっと何かまた有るのではないかと…。 以前も出来るはずも無い料理に挑戦して、フライパンまでもを黒焦げにしていた。 それ以来、料理に挑戦する事はなくなったが、今でも時折 小言の様に口を漏らしている。 一騎はどうして僕に調理させてくれないんだ、と。 「なぁ、総士…、お前 包帯の巻き方 知ってるのか?」 「な…っ!バカにするなっ。包帯の巻き方くらい知っている!」 そう言って、おもむろに総士は一騎の掌を掴み、突き指をした指に包帯を巻きつけようとしてきた。 しかし、やはりと言うべきか……さすが皆城総士。 ここまで天然で、不器用な人間はそうは居ないだろう。 「待…っ!ちょっと待って!総士っ」 「何だ?僕では不満だというのか?」 「いや、そうじゃなくて…」 一騎はムスッとむくれた総士に軽く一息吐くと、一言だけ言葉を紡ぐ。 「包帯を巻く前に、せめて湿布くらいは貼ってくれ。」 「………。」 結局、何だかんだ揉めている間に保健室の主である遠見千鶴が戻ってきて 一騎の指はキチンと手当てされ事なきを得たのだが…… 一騎に指摘され、湿布を貼った上に総士が巻き付けていった包帯は 物の見事にミイラのような掌にされていたとか何とか。 その余りにも見事な巻きっぷりに、一騎も戻ってきた千鶴も笑いを通り越して半ば言葉を失っていた。 END おバカ総士たん。きっとココまでボケを咬ますのは君だけだろう。 こんなアホみたいなネタでスミマセン。 ふとした拍子に思いついたので、忘れないうちに書いてみました。 2005・3・14 |