いつからだろう。君の存在がこんなにも大きくなってしまったのは。
気が付けば傍にいるのが当たり前で、一種の安定剤のような存在にもなっていた。
君だからこそ心から安らげるような気がして、いつしか身も心も、
全てにおいて委ねきっていたように思う…。
『瞳の奥に見えたもの』 -03-
一度 箍が外れてしまった気持ちは、すぐに修復が効くわけがなく、総士は無我夢中で一騎を求めた。
今まで蓄積されていた抑えていた気持ちが溢れ出し、必死になって一騎に縋りつく。
「一騎…っ…も、離すな…離さないで……」
一人でいる事がこんなにも怖いなんて、背負い込むのがこんなにも重かったなんて
今まで思ったことも…考えたこともなかった。
幼い頃から、一種のマインドコントロールの様に身体から思考の全てにおいて刷り込む様にして
教え込まれ、それが極当然の様にして日常に紛れ込んでいた。
むしろ島を守れる事が誇りでもあるかのように、選択権も何もなく総士は当然の様に受け入れた。
でもいつからだろう…。島を守る事から、一騎を守りたいと思ってしまったのは。
たった一人の人間の為に、自分の総てをかけて守りたいと願ってしまったのは。
「…総士…」
――あたたかい。
一騎の腕が、掌が、馴染みなれた優しくて大きな胸が、総士の総てを包み込む。
触れ合った箇所から一騎の鼓動が伝わってきて、軋んだベッドの上で改めて一騎の存在を確認した。
揺れる琥珀の瞳には真っ直ぐに総士の姿が映し出されていて、訳もなく涙が溢れ出す。
あぁ、一騎だ。
「もう、離さないから」
耳元で、低く囁く一騎の声が酷く優しくて、瞬時にして総てを投げ出して縋ろうとしたけれど、
最後の最後で総士の中にある理性がそれを無意識の内に邪魔をする。
その僅かな抵抗が総士の意識を鈍らせ、素直に気持ちを伝える事が出来ないもどかしさ。
怖くて、苦しくて、きっと誰よりも心が寂しくて脆かったのは総士の方だろう。
「今まで辛い思いさせてごめん…」
「かず…」
最後の言葉を伝える前に、一騎の唇がそれを飲み込むようにやんわりと覆った。
言葉で伝えなくても、そこから一騎の気持ちが流れ込んでくるようで、キュッと胸が締め付けられる。
―――もう、ひとりで苦しまないで。
そんな一騎の声が聞こえてきた気がして、涙腺が壊れたかのように再び涙が零れ落ちた。
守らなきゃいけない筈の立場でいながら、いつからこんなにも縋る事を覚えてしまったのだろう。
「…っ……ん…ん…」
浅く深く口付けを繰り返し、気が付けば総士の胸元を一騎の掌が探るようにして漂い始める。
やわやわと服の上から摩っていたかと思えば、指先でつんっと尖りを弾き
その刺激に総士は素直に反応を示す。
「…ぁ…ぅあ……」
久しぶりの総士のそんな姿を愛おしそうに見つめながら、一騎はやんわりと微笑みその先へと
愛撫を続けようとしたけれど、その掌がピタリと止まる。
よくよく見れば、総士の首筋には自分ではない誰かがつけた証がハッキリと記されていて、
真っ白な肌の上に赤い刻印をまざまざと浮かび上がらせていた。
「―――っ!」
やりきれない自分への怒りが押し寄せ、頭に血が昇って目の前が一瞬にして真っ赤に染めあがった。
総士が今までどんな屈辱に耐えてきていたのか知らなかっただけに、どうしようもなく無力な自分が
腹立たしくて、やり場のない怒りだけが矛先を見失う。
「かず、き…?」
甘い吐息混じりに窺ってくる総士に、ハッと気が付けば気付かぬ内に頬を冷たい何かが伝っていた。
それが涙だと気付くのに時間はかからなかったけれど、止める事も出来る筈がなく次々と溢れ出す。
「どうして一騎が泣いてるんだ…。」
細くて低体温な総士の掌が、そっと一騎の涙を拭いながら問い掛ける。
こんな細い身体で、誰よりも弱い心で、今までどれだけの苦痛を味合わされていたのだろう…
誰にも相談せずに、一人でどれだけの思いを耐えてきていたのだろう…
常に傍らにいた自分さえも頼りにしないで、何で全てを背負い込もうとするんだ。
「俺…俺は…もう、二度と総士をあんな目にあわせたくない…!」
傲慢かもしれない。ただの自己満足かもしれない。
無力な自分にはどうする事も出来ないのかもしれない。
だけど、二度と総士のあんな姿は見たくなかった。
「……っ…」
大きく総士の瞳が揺れたのが分かった。本人は必死に隠そうとしているようだけれど、
戸惑い隠し切れない本心は形となって現れる。
本当は嫌な筈だ。あんな事、誰が好き好んで自ら受け入れようか。
島の為だからとか、自分に課せられた使命だとか、そんな事の為にたった一人の最愛の人が
犠牲になるなんて。
「総士は、俺だけのものだ…!」
頭ではどんな事において理解していても、理性の上では全てを受け入れるのにはまだ子供で、
激しい嫉妬と、強欲と、やり場を見失った怒りが今にも爆発しそうだった。
To Be Continued
あれ…エロ入らなかった…
ってか、当初 考えていた形と随分変わってしまったんですが。
さて、この続きはどうしよう…(ぇ)
2005・12・4
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