In a dream and real interval


例えば、どれだけの言葉で表せばお前は信じてくれる?
例えば、生き死にを決められるのならお前はどこに生まれ、どこで眠りにつきたい?
俺なら、お前の事なら何だって信じてみせる。
俺なら、お前と同じ世界に生まれ、一緒に眠りにつきたい。

総士は…違うのか?



『In a dream and real interval』 -04-




総士が意識を失ってから2週間が過ぎた。けれど、何の変哲もなく時間は流れゆく。
身体は温かいのに、瞳の奥にある光は閉ざされたまま。一騎を映し出さない。
奇跡的にも体力の方は通常…とまではいかないけれど、ある程度は回復し、何とか自力で呼吸は出来るように なったようだ。お陰であの痛々しい配線や生命維持装置は外された。
それでも、総士の腕に刺さる点滴は外せない。
目を覚まさない総士にとって、口から食べ物を送れない以上、点滴でしか栄養を補えない。
見れば、幾度となく刺された腕には点々と赤い痕が残されていた。
「今日、学校で剣司が性懲りもなく俺に勝負を持ちかけてきたよ。結果はいつもの通り、俺の勝ち。 これで32勝0敗だったかな?剣司も懲りないよなぁ」
はは、と乾いた笑いが室内に響き渡る。
眠り続ける総士の頬に触れ、優しく髪を梳き、時にはそっと口付けて、一騎は毎日総士に話しかけた。
必ず戻ってくる。そう信じて。
「あら、今日は早いのね」
背後に感じた声に振り返れば、そこには遠見千鶴の姿。手には何か小道具を持っていて、すぐに総士の検診に 来たのだと分かる。
「一騎」
そして、今日は別の可愛らしい声がもう一人。千鶴の横に、乙姫が居た。
「今日は特に用事もないので…学校が終わってすぐ、こっちに来ました」
総士の手を握ったまま、離す事なく答えた。少しでも長く総士の体温を感じていたくて、一瞬でも 離すのが嫌で、いつもギリギリになるまで一騎は総士の手を離さない。
「そう。でも、あなたも休んだ方がいいわよ」
「え?」
「寝てないんでしょう?」
「…」
寝れるわけないじゃないか。寝てしまったら、総士とはもう二度と会えなくなるような気がして、 怖くて目を閉じる事が出来なかった。
瞼を閉じたら深い闇。そんな中に総士は独りでいるのだと思うと、自分だけどうして陽の当たる場所に居るのだろうと 思う。どうして総士には光がないのか。
「俺なら…」
「ダメ。」
大丈夫です、と言う前にバッサリと言い捨てられた。
「睡眠をとるのは とても大事な事なのよ?」
「でも…っ」
「総士くんの事が気になるのは分かる。でも、自分の自己管理も出来ないようじゃ、総士くんは任せられないわ」
「…っ」
それなら総士はどうだと言うのだ。総士も千鶴も同じ事を言う。
いつもいつも俺の心配ばかりして、他人の心配ばかりして、自分の事は後回し。
その結果がコレなんじゃないのか?
もっと自分を大事にしていれば、こんな事にはならなかったんじゃないのか?
そんな細い身体で、何よりも弱い心で全部背負い込んで、限界を超えても独りで抱え込んで。
バカじゃないのか?
「…一騎くん…?」
そんなんで俺が喜ぶと思ったのかよ。俺が感謝するのかと思ったのかよ。
違うだろう?俺は、お前と同じ道を歩きたいんだ。総士と一緒に進みたいんだ。
お前の痛みを、俺にも分けて欲しかった。
「俺、は…」
気が付けば、頬に涙が伝っていた。
「大丈夫だよ、一騎。」
「…乙姫、ちゃん…」
まるで天使の様に可愛らしい微笑みで、乙姫はそっと一騎の手を握り締める。
そこには総士と変わらない温もりが在って、確実に一騎の中に溶け込んでいった。
「明けない夜があるように、総士にも目覚めの時は必ず来る。今はまだ総士の心が迷っているだけ。 でも、一騎がここに居る限り総士は必ず戻ってくるから。」
総士とは違い、感情を表に出す乙姫の笑顔は眩しかった。常に冷静な総士とは違い、乙姫は喜怒哀楽が激しい。 きっと、総士が表に出さない分、乙姫がそれを補っているのだろう。
「だから、総士が目覚めた時、一騎が倒れていたら…総士、また自分を責めるよ。」
ちくり、と胸が痛む。総士が自分を責める事なんて何もないのに、自分を責めて責めて苛む姿が はっきりと思い浮かんでしまったから。
また独りで耐えて、涙を流している姿を思い浮かべてしまったから。
総士…。お前は、いつになったら俺を頼ってくれるんだ?
鳥は片翼では飛べないんだよ。いい加減、その事に気付けよ。
「総士…っ」

その日の夜、結局俺はまた眠る事ができなかった。










To Be Continued





くるくる回る。
時は回る。
けれど、総士の時は未だ止まったまま。


2006・3・4