俺とお前。二人揃って初めて同じ世界に立てるんだ。
お前が居たから俺は空を飛べた。お前も、俺を信じていたから飛べたんだろう?
俺は右翼。そしてお前は左翼。
どちらかの翼が折られれば、その鳥は二度と飛べなくなる。
だから、どちらか片方が欠けるなんて事はあってはならないんだ。
―――だって、そこが俺たちの絶対領域なのだから。
『In a dream and real interval』 -02-
俺は今まで、総士の何を知っていたのだろう。全てを解ったつもりでいて、実は何も解っていなかったのかもしれない。
夜、総士は一人で泣いていた。
それは何に対しての涙?
怒り…哀しみ…喜び…どれを取っても違う気がする。
なら、総士は一体どうして涙を流すのだろう。どうして独りで泣くのだろう。
俺が傍にいるのに。
「自殺…?」
「えぇ。そうとしか考えられないわ」
「そんな!総士に限ってそんな事…!」
ない…、と言おうとして、その先の言葉が出てこなかった。
いつも何かに独りで耐えていた総士。痛くて、苦しくて、それでも縋る相手がいなくて。
それがどんなに辛い事か、一騎は知っている。
だからこそ、もっと強くなって総士を抱きしめられるようになりたかった。
いつでもどこでも総士だけを想い、総士だけを守ってきていたつもりだった。
けれど、実際は今でも一騎は総士に守られている。総士の持つ大きな翼の中に、一騎は居る。
一騎の痛みも孤独も哀しさも独りで抱え込み、外に溢れないように必死に抑えてきていた。
総士が守ってきていた、一騎への想い。独りで抱え込んでいた負の恐怖。
けれど…もう、身も心も限界だったのだろう。自由になりたかったのだろう。
そう思えば、総士の取った行動に合点がいく。
「フラッシュバックの影響も大きかったのね…。ここ最近、薬を貰いに来る回数も多くなってきていたから検査するべきだと
彼には伝えたわ。けれど、彼はそれを拒絶した。」
そこで一旦話を区切り、千鶴は一騎を真っ直ぐ見つめる。
「とにかく、今は総士くんに話しかけてあげて。もしかしたら、脳を刺激して目を覚ます糸口になるかもしれないから」
そう言い残して、遠見千鶴はメディカルルームから出て行った。
部屋に残された一騎は、呆然としながら今はもう見えなくなってしまった千鶴の姿を追っていた。
話しかけるって誰に…?総士に…?
何を言っているんだ。もう、総士はこんななのに。
隣の別室で総士は体中に色々な配線を繋がれ、まるで機械の様に横たわっていた。
一騎には何が何だか分からないような配線ばかりが総士を繋いでいて…その姿が痛々しい。
一定のリズムを刻むように、シューと音を立てて総士を繋ぐその機械は、総士の生命線。
もう自力で呼吸すらする事の出来なくなった総士は、生命維持装置に頼る他 術はない。
たったスイッチ一つで命を繋ぎ、またその反対も然り。スイッチを切れば命も絶える。
「…総士」
そっと頬に手を触れ、名を呼びかける。けれど、当然返事など無い。
先ほどまで氷の様に冷たかった身体には温もりが戻っていて、総士が生きているのだと分かる。
でも。
「植物人間ってなんだよ…」
千鶴にそう言われた。もし、体力が回復して自力で呼吸が出来るようになったとしても目を覚ます補償はないと。
このままずっと、生きたまま眠り続けるかもしれないと。
まだそれは分からないけれど、大量出血によって脳への酸素があまりにも足りなかった。
急激な酸素不足により、脳が停止。生きる事への伝達を一時的に止めてしまった。
それに加え、今まで蓄積されていた蝕まれた身体への悪影響が重なり、総士の身体はズタズタに引き裂かれていた。
痛みは薬で押さえ込み、また痛くなったら更に薬の量を増やし。
そうして積み上げてきていた身体への負荷が体内で爆発したのだろう。胃が荒れ、食道が荒れ、ついには吐血。
朦朧とした頭では何も考えられず、ついには存在そのものを消してしまえば楽になると…
そう結論づいてしまったのかもしれない。
「もう一度目を開けてくれ…。お前の声が聞きたい…っ」
その場で泣き崩れ、一騎はそのまま一夜を明かした。
総士の手を、きつく握り締めたまま。
To Be Continued
…なぁ、総士。
俺はどこに行けばいい?
お前の居ない世界なんて考えられないよ…
2006・3・4
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