In a dream and real interval


例え、消えてしまいたいと願っていても、本心では生きたいと願っていたりするものである。
相反する心。葛藤する気持ち。
そんな中、暗闇に光が照らされたら、きっと人は縋りつくようにして光を求めるだろう。
心に隠された本心…生へと繋がる道標を辿って。



『In a dream and real interval』 -06-




竜宮島では季節は冬を迎え、より一層厳しい寒さを曝すかのように強い北風が吹いている。
そんな寒い中を誰が外に出るわけでもなく、外は冷たい風が唸りをあげて吹き曝していた。
「…ん……あ、れ…」
アルヴィスの地下にはそんな風が届く事なんかなく、静かなもの。部屋には暖房器具があり、 外の気温が嘘の様に暖かい。
でも、一騎にはそんな物があってもなくても同じようなものだった。
総士が自分の傍から離れた瞬間から、一騎の心には埋めようも無い隙間が出来てしまっていたのだから。
「俺、寝ちゃったんだ…」
夢から覚めた一騎は、総士の寝顔を見ながらポツリと呟いた。
その表情は、どこか寂しく…どこか儚な気で。
夢の中ではいつも通りの総士が居た。頑なに意地を張って、不器用で素直でなくて。
けれど、そんな総士が何よりも愛しくて、肌に触れて抱きしめてキスをして…。そんな幸せな夢。
「…総士」
そっと頬に触れ、左目に大きく走る傷跡を辿る。
夢に出てくるほど、俺は総士に溺れている。きっと何よりも誰よりも総士に依存しているのは俺だ。
総士はまだここに居る。いるけれど、心はここに居ない。
この埋めようも無い寂しさが、孤独感が、一騎の中で大きく膨らんでゆく。
他では埋めようも無い、総士という存在の穴が。
「総士…」
名を呼んでも、未だ総士は眠りについたまま。けれど、そんな総士に慣れてしまった自分がここにいる事もまた事実。
それは、何と怖ろしい事なのだろう。
そんな気持ちを振り切るかのように、一騎は総士に口付けた。触れる程度の、軽いキス。
これもいつもの事。総士に話しかけ、総士に触れ、そして口付けを落とす。
今となっては、これが一騎の日課のようなものになっていた。
「そう、し?」
けれど、この日は違っていた。いや、正確には戻った、と言った方が正しいのかもしれない。
軽く口付けを交わし、互いの唇が離れる刹那…ほんの一瞬だけ、総士の睫が震えた気がした。
逸る気持ちを抑え、一騎は総士の手をきつく握り締め必死に名前を呼ぶ。
「総士!俺だッ、分かるか?!総士ッ!」
今まで硬く閉ざされていた瞳が開く。穏やかに…まるでスローモーションのように、ゆっくりと。
真っ白な肌に、色素の薄い亜麻色の髪。綺麗な顔に大きく走る左目の傷跡。
伏せられたアイスグレーの瞳が、春の雪解け水の様に透明な光を…今、映し出す。
「……」
「総士!」
握り締めていた総士の指に、僅かに力が込められた。それは本当に微かな力だったけれど、 今の総士には精一杯の力なのだろう。
完全に意識が回復したわけではないけれど、必死に呼びかける一騎へ振り返った総士の表情は、 一騎が見たくて仕方の無いものだった。


おかえり、総士。










To Be Continued





やっと…やっと会えた。
誰よりも愛しい人。


2006・3・13