In a dream and real interval


本当は怖かった。優しすぎるお前が。
いつか全てを投げ出して縋り付いてしまいそうな自分がいて…。
だから弱音は吐きたくなかった。己は強くなければならないと、何度も何度も言い聞かせてきたんだ。



『In a dream and real interval』 -07-




真っ白な蛍光灯に、どこか見覚えのある天上。…ここはどこだろう。
真っ暗な水の底から導かれるままに温かい光を追ってきた。やっとの思いで捕まえた光は、 あっと言う間に心の闇を消し去り、暗闇を真っ白に塗り替えた。
全身に降り注ぐ光。眩しいくらいに真っ白で、反対に自分がいる事の方が不自然にさえ思える。
けれど、この光を追ってきたのは紛れもなく自分自身。
「総士ッ」
また、声が聞こえる。真っ暗な水の底にいた時と同じ声。
知ってる。知ってる。知ってる。
僕は、この声の主を知っている。
脳裏に浮かぶ声の主を呼ぼうと名前を紡ぐが、それは音にはならずに消えていった。


夢から現実に引き戻され、その間1ヶ月以上 眠り続けていたと聞かされ、一騎があれだけ 取り乱していた事に今更ながら納得した。
涙を流す事はしょっちゅうあったけれど、正直あそこまで泣きついた一騎の姿は見た事が無かった。 涙と鼻水で顔はぐしょぐしょで、何かを喋っているようだったけど何を言ってるのか聞き取れなくて。
だけど、僕の名前を呼び続けていた事だけははっきりと記憶している。
「総士、お粥作ってきたけど…食べれるか?」
意識を取り戻してから3日。総士は早々にメディカルルームから自室へと移った。
これ以上は迷惑をかけたくない、と言うのと、正直あそこは居心地が悪くてあまり居たくなかった。 当然の様にそこの主である遠見千鶴は引き止めたけれど、強く押し切って今に至る。
「…いつまでも病人扱いするな」
「病人扱いも何も…病人じゃないか」
正直、優しくされる事に慣れていない総士は、一騎が接してくる度に突き放すような言葉しか言えなかった。 否、総士にはそれ以外に接し方を知らないのだ。
甘える事。愛する事。愛される事。
愛おしい、と思えても、それ以上は想ってはいけないのだと、総士の中でブレーキをかけられ 一騎には素直に伝える事が出来なかった自分の気持ち。
好きなのに…こんなに好きなのに、それでも自分はそれ以上を願ってはいけないのだと…望んではいけないのだと 胸の奥に必死に押し込んできていた。
「それくらい、自分で食べられる」
口元に運ばれたスプーンを目にし、総士はぎこちない手つきでスプーンを握りゆっくりと口へと運んだ。 久しぶりに口に付けた食べ物に、身体の芯から温まる。
けれど1ヶ月以上ものブランクは大きかった。もともと細かった身体は更に筋肉を落とし、 以前よりも格段と痩せ細った身体は力がまったく出ない。
ぎゅっと握ったつもりが全く力が入っていなく、カラン・・と音を立てて床にスプーンが落ちた。
「……っ…」
とんだ醜態に総士は嫌気がさす。こんな事すら出来ない身体に、心底腹が立った。
死にきれなかった自分。そのお陰で周りに多大な迷惑をかけた。もっと自分がしっかりしていれば、 一騎にも…周囲の人にもこんな迷惑なんかかける事も無かったのに。
どうして消える事ができなかったのだろう。
どうして僕はここに存在しているのだろう。
何の為に、僕は戻ってきてしまったのだろう。
そんな事ばかりが頭の中を渦巻いてゆく。
「総士…ほら」
こんな事を想定していたかのように、一騎は予備に用意していたスプーンでお粥を掬い、総士の口元へ運ぶ。 けれど、そんな行為を無駄にするかのように総士は一騎の手からスプーンを取ろうとした。
しかし今度は一騎の手から奪い取れない。
「一騎…っ」
離せ、と言わんばかりに一騎へ視線を送れば、真っ直ぐに総士を見る一騎がそこにいた。
「俺が食べさせてやるから」
「だから、それくらい自分で…」
「いい加減にしろ!総士」
ぴしゃりと言い切られ、総士は何も言い返せなくなった。
反論する事を許さないと言うように一騎はきつい口調で言い捨て、総士を丸め込む。
けれど理由が無くてこんな事を言う筈がない。理由があるからこそ、口調が厳しくなるのだ。
「…なぁ、総士…もっと俺を頼ってくれよ…」
いつまでも片翼で飛ぼうとしないでくれ。
両方の翼で飛べるように、足りない片翼を俺に任せて欲しいんだ。

そう優しく問い掛ければ、堰を切ったかのように総士は初めてかもしれない… 声を上げて一騎の腕の中で透明な涙を流した。










To Be Continued





本当は一騎に気付いて欲しかったのかもしれない…
僕の中の孤独を。


2006・3・13
次は少し性表現を含みます。
苦手な方は要注意。